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神戸地方裁判所 平成2年(ワ)9号 判決 1992年8月21日

原告

株式会社ぷらすあるふあ

被告

江口正信

主文

一  被告は、原告に対し、金一八〇万四四〇〇円及び内金一六四万四四〇〇円に対する平成元年一月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は原告に対し、金二五一万六〇四〇円及び内金二二六万六〇四〇円に対する平成元年一月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が第三者からリースして使用中の普通乗用自動車(以下「原告車両」という)が、交通事故のために破損し損害を被つたとして、被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

一  当事者間に争いのない事実

1  昭和六四年一月七日午前一〇時四五分頃、大阪市北区梅田三丁目の二先路上において、被告運転にかかる普通乗用自動車が暴走し、次々に玉突き衝突事故を起こしたために、原告が使用し手嶋元利が運転していた原告車両が修理不能とはいえないまでも大破する結果となつた。

2  被告は、その過失によつて本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条に基づき、原告が被つた損害(物損)について賠償すべき責任がある。

二  本件の争点(損害額)

1  原告の主位的請求原因

(原告の主張)

原告車両は、原告が株式会社日産観光サービス(以下「リース会社」という)との間のリース契約に基づいて使用していたものであるが、本件事故の結果、原告は、リース契約の中途解約による約定損害金二〇一万六七四〇円と、本件事故から右リース契約解約までの間の九箇月分につき、原告が支払つたリース料と原告車両の価格逓減額との差損として月額二万七七〇〇円の割合によつて二四万九三〇〇円の損害を被り、これらを併せた二二六万六〇四〇円と本訴の提起及び遂行のための弁護士費用として二五万円の損害が生じた。

(被告の反論)

原告が主張する右損害は、被告の通常予見し得ない特別損害に当たるもので、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

2  原告の予備的請求原因

(原告の主張)

原告車両の修理費として、基本的修理費一四三万二〇〇〇円に加え、全塗装費用として三六万三〇〇〇円、その他の修理費用として二五万六八六〇円が必要であり、また、本件事故による評価損(価格落ち)として三九万五五〇〇円が見込まれるとして、以上を合計した二四四万七三六〇円と弁護士費用が損害として生じた。

(被告の反論)

本件事故と相当因果関係のある修理費は、前記基本的修理費一四三万二〇〇〇円にとどまり、その余の修理費は過剰なものであり、また、原告主張の評価損は客観的根拠に乏しいもので損害として認められない。

第三当裁判所の判断

一  被告が、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被つた損害(物損)を賠償すべき責任を負うことは当事者間に争いがなく、本件における争点は、右損害額の認定に尽きる。

二  まず、原告主張の主位的請求原因について検討する。

1  甲第二号証、第三号証の一、二、第六ないし第八号証及び原告代表者尋問の結果によると、原告は、昭和六三年三月一日、前記リース会社(なお、株式会社日産観光サービスは、その後商号を変更して日産カーリース株式会社となつた。)から原告車両(フオルクスワーゲンジエツタ・E―16RV、六三年式、同年三月登録)を、リース期間同月一七日から三年間、月額リース料金八万四〇〇〇円、規定損害金の基本額三〇二万七七〇〇円(各月の逓減月額五万六三〇〇円)との約定にてリースし、これを使用していたこと、原告は、本件事故後、原告車両がその修理費見積等のために株式会社ヤナセ神戸支店に置かれていた間も、平成元年一〇月分まで各月のリース料を支払つたこと、原告は、同月四日頃、リース会社からリース契約の中途解約の申出を受け、中途解約に伴う損害金として、前記規定損害金の基本額三〇二万七七〇〇円から、リース料が支払済みである一九箇月分については価格逓減が済んだものとして月額五万六三〇〇円の割合でこれを控除した残額一九五万八〇〇〇円とこれに対する消費税五万八七四〇円との合計額二〇一万六七四〇円の支払請求を受けたこと、そして、原告は、同月一六日リース契約を中途解約した上、同月三一日リース会社に対し右金員を支払つたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  ところで、原告は、右の事実を前提として、右二〇一万六七四〇円と、本件事故からリース契約が中途解約された平成元年一〇月までの間の九箇月分についてはリース料と価格逓減額との差損として月額二万七七〇〇円の割合によつて二四万九三〇〇円の損害を被つたと主張する。

しかしながら、本件のように、交通事故により車両が破損し、それが修理不能とはいえない程度のものである場合には(これは当事者間に争いがない)、事故の加害者が賠償すべき右破損に伴う車両の損害は、原則として通常の修理に要する修理費に限定されるものと解されるところ(なお、後述する評価損のほか、いわゆる代車料や休車損害が相当因果関係のある損害として認められる場合のあることは別である。)、原告主張の右損害は、原告車両がリース中の車両であつたことによるものであり、原告とリース会社との間で約定されていた原告が負担すべき損害金というのはその性質上いわゆる特別損害に該当するもので、被告にとつては通常予見し得ないものといわなければならず、また、原告が本件事故後も支払を続けたリース料と価格逓減額との差損についても、右と同様、本件事故によつて通常生ずる損害とは認め難いものであつて、さらに、本件全証拠を検討してみても、被告においてこれらを特に予見し又は予見し得たことを窺わせるような証拠は全くないから、原告主張の右損害を本件事故と相当因果関係のある損害として認めることはできないというべきである。

三  次に、原告主張の予備的請求原因について検討する。

1  (修理費)

(一) 原告車両の修理費として、一四三万二〇〇〇円を要することは当事者間に争いがないところ、さらに、原告は、全塗装費用三六万三〇〇〇円とその他の修理費用二五万六八六〇円が必要である旨主張し、これに沿う証拠として甲第九号証及び第四号証の二を提出する。

(二) そこで検討するに、甲第四号証の一、二、第九号証、検甲第一ないし第三六号証、乙第一ないし第四号証、検乙第一ないし第二三号証、証人小関葆光及び同吉川泰輔の各証言並びに原告代表者尋問の結果を総合すると、原告車両は、本件事故の際、被告車両の追突により車体後部に強い衝撃を受けた上、その反動により前方に押し出されてその前方で停車していた他車に衝突し、車体前部にも衝撃を受けたこと、その結果、原告車両は、ほぼ車体全域にわたつて損傷が生じたが、車体右後部に最も顕著な損傷を受けてリヤーバンパー、リヤーエンドパネル、リヤーコンビネーシヨンランプ等が変形、破損したほか、床部、右側面のフロントドアー及びリヤードア、左後部のリヤーサイドアウターパネル、ルーフパネル等に損傷が生じ、また、車体前部においても、ヘツドランプの割損やラジエーターグリル、フロントフエンダー、エンジンフードの先端部及びエンジンルーム内部等に損傷が生じたこと、そして、平成元年一月二三日付けで前記ヤナセ神戸支店から原告に提出された見積書(甲第四号証の一)によると、修理費として一四一万六〇〇〇円及びレツカー代として一万六〇〇〇円の合計一四三万二〇〇〇円が見込まれており、また、損害額認定の調査に当たつた大東京火災海上保険株式会社神戸サービスセンターの技術アジヤスター小関葆光とヤナセとの間では右の額で損害額認定の仮協定がされたこと、ところが、その後、原告は、ヤナセに対しさらに修理の見積を求めたため、ヤナセから、追加的に、同年四月一八日付けで原告車両につき全塗装を必要とした場合の費用三六万三〇〇〇円の見積書(甲第九号証)と、同月一九日付けで同じくトランスミツシヨン部分の分解修理を必要とした場合の費用二五万六八〇〇円の見積書(甲第四号証の二)がそれぞれ提出されたこと、そして、原告車両は、リース契約解約に伴い、修理されることなく廃車にされたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三) 右認定の事実関係をもとにして、まず、全塗装の要否について検討してみるに、原告車両の損傷がほぼ車体全域にわたるものであることは前記認定のとおりではあるが、前記甲第四号証の一によると、既に原告車両の部分塗装費として一六万円が見積もられている上、前記乙第三、第四号証、前記小関証人及び吉川証人の各証言によると、ヤナセの保持する高水準の塗装技術と高品質の塗装材料とを用いれば、損傷箇所のみの部分塗装であつても事故前の色相、色調に復元することが容易であることが認められるから、原告車両につき全塗装が必要であるとは認め難いというべきであり、他にこの必要性を肯認するに足りる証拠はない。

(四) 次に、トランスミツシヨン部分の分解修理費用の要否について検討してみるに、原告車両は、前記認定のとおり被告車両による追突を受けて前方に押し出され停止中の車両と衝突したのであるが、前記乙第四号証及び吉川証人の証言によると、原告車両前部の根幹的な構造部分であるフロントサイドフレームには損傷が及んでいないことや、吉川証人が自動車工学的に試算したところでは右衝突時の原告車両の衝突速度やこれによる衝撃の程度と車体に及ぼす影響度は比較的小さいものであるとされていることが認められる上、また、前記乙第三号証や前記小関証人も、トランスミツシヨン部分の修理の必要性を認めていないし、さらに、原告代表者尋問の結果と弁論の全趣旨によると、前記甲第四号証の二は、ヤナセが甲第四号証の一に基づいて原告車両を修理して一度走行をしてみたときに、不具合があればその際に行う修理費として予め見積りをしたものであることが認められ、以上からすると、原告車両のトランスミツシヨン部分に不具合が生じ又は生じている可能性があるためにその分解修理が必要であるとまでは直ちに認められないものといわなければならず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(五) そうすると、原告車両の修理費としては、原告主張の全塗装費用とトランスミツシヨン部分の分解修理費用については認められないことに帰着し、結局、一四三万二〇〇〇円(そのうち一万六〇〇〇円はレツカー代)にとどまるべきことになる。

2  (評価損)

原告は、原告車両につき修理復元をしてみても、三九万五五〇〇円の評価損が生じていると主張し、これに沿う証拠として甲第五号証を提出する。

ところで、一般に、評価損というのは、事故により損傷した車両は、必要な修理がされた場合であつても、技術上の限界から機能や外観が事故前よりも低下することや、事故歴によつて商品価値の下落が見込まれることによつて、事故に遭つていない車両よりも減価していると認められる場合に生ずるものと解されている。そこで、検討するに、まず、甲第五号証は、財団法人日本自動車査定協会神戸支所が平成元年四月に作成したもので、修理費については前記一四一万六〇〇〇円を前提にして、事故損傷による原告車両の減価額を三九万五五〇〇円と評価している。同協会の性格等にかんがみると、この評価結果は尊重すべきものと考えられるが、甲第五号証の記載だけでは、原告車両の本件事故直前の時価をどのような方法でいくらと評価したかなどの点が明らかではなく、また、前記乙第四号証中の右評価結果に対する批判的記載部分をしん酌すると、直ちに右減価額をそのまま本件における評価損として採用するのは妥当ではなく、むしろ、この評価結果のほか、前記認定のような原告車両の車種、登録日から事故までの期間、本件事故による損傷状況とこれに対して必要とされる修理内容等の諸事情を総合して考えるのが妥当というべきであり、そして、これによれば、原告車両は、事故歴による減価が避けられないものと認められ、その減価額は修理費の一五パーセントと推認するのが相当である。そうすると、本件では、前記修理費一四一万六〇〇〇円の一五パーセントである二一万二四〇〇円が評価損となる。

3  (弁護士費用)

本件事案の内容、審理の経過、認容額等を勘案すると、原告が本件事故と相当因果関係があるものとして賠償を求め得る弁護士費用の額は一六万円と認めるのが相当である。

四  以上の次第であるから、原告の本訴請求は、金一八〇万四四〇〇円及び内金一六四万四四〇〇円に対する不法行為の日以後であることが明らかな平成元年一月八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安浪亮介)

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